2010年6月8日

【コラム】電子教科書はどうなるのか

以下の記事を興味深く読ませていただきました。

出版社が早急に実現すべき電子教科書とは

自分も、紙の教科書にこだわる出版社の未来は決して明るくないと思いますし、記事の中で提案されているような電子教科書が実現できればいいな、とは思いますが、実際はむずかしいと感じています。

その理由として、以下の4つが挙げられます。
1.教科書会社にデジタルコンテンツを作る能力があるのか?
2.教科書の制度上の問題を乗り越えられるのか?
3.デジタル教科書の収益モデルはどうなるのか?
4.民主党政権下で教育改革ができるのか?


1.教科書会社にデジタルコンテンツを作る能力があるのか?
そもそも教科書会社は「出版物」としての教科書を製作することについては当然プロですが、「デジタルコンテンツ」という発想からの教科書を作成するに当たって、どこまで能力があるのか疑問を感じています。
現在でもデジタル教材と呼ばれるものは各社から出ていますが、紙媒体の教科書をそのままデータで見れるようにして、若干ビジュアルを良くしたり、音声をつけてみたり、といったことをしている程度です。
デジタルであることの特徴を生かした、生徒の興味を引き付けるような「コンテンツ」としての作り込みは、やはりそのような能力に長けたIT系の企業が製作するようになるのではないでしょうか?


2.教科書の制度上の問題を乗り越えられるのか?
海外とは違い、日本の教科書には独自の制度があります。
問題となるのはおそらく「学習指導要領」と「教科書検定」ではないでしょうか。
学習指導要領は、文科省が定める学校教育の基準となるもので、教科書の内容にも強い影響を与えます。どの学年で何の教科を何時間教えなければいけない、などと細かく基準が決められています。
また教科書検定は、民間の会社が製作した教科書について、文科省の諮問機関である「教科用図書検定調査審議会」で内容が吟味され、その上で文科省大臣の検定を受けるという手順をふみます。正式な認定が下りたものしか教科書として使用できません。
このようにさまざまな制約が多い中では、デジタルの良さを生かした魅力的な教科書が生まれにくいと考えます。


3.デジタル教科書の収益モデルはどうなるのか?
現在、教科書は無償で配布されています。
当然ですが、教科書製作会社がボランティアで行っているわけではないので、政府が教科書製作会社から買い上げ、それを無償配布するという形をとっています。
平成17年度の資料ですが、「義務教育教科書無償給与制度について」によると、年間の予算は399億円、生徒数は1089万人となっています。
また、「文科省の教科書Q&Aによれば、教科書の発行状況は、小学校用を例にすると以下のようになっています。

発行種類:51種
発行点数:293点
需要冊数:約7214万冊
発行者数:15社

単純に需要冊数を発行点数で割ると、教科書1冊当たりの平均発行部数は約25万冊。これはそれぞれの教科書がちょっとしたベストセラー程度の部数があるということになります。

さて、これがデジタル教科書になると、どのような形になるのでしょうか?
総務省は以下のような方針を打ち出しています。

・生徒全員にデジタル教科書を配布する(原口ビジョン
・ICTを使った協働教育を実現する(原口ビジョンⅡ

そうなると、国レベルで運営される「教育クラウド」と称されるWEBページに、それぞれがタブレットPCのようなものを使ってアクセスし、授業を行うようなイメージになると思います。
おそらくですが、教科書はデジタルコンテンツになっても生徒に対しては無償のままでしょう。そうすると現在と同様に政府が買い上げる方向になると思いますが、クラウド形式になると、極端な話、コンテンツを一つ買い上げればいい、ということになります。
現在の紙媒体の教科書が1冊数十万部発行していることを考えると、教科書会社の売り上げは激減するかもしれません。
このあたりの収益モデルにある程度見通しが出ないと、教科書会社は本気になってデジタル教科書を製作しようとは思わないかもしれません。


4.民主党政権で教育改革ができるのか?
現在の民主党政権下で、教育改革ができるか、という問題もあります。
なぜなら、民主党の支持基盤として「日教組」の存在があるからです。
制度自体の是非は別として、民主党は昨年夏の政権交代直後に、教員免許状更新制度の廃止を打ち出しています。このような状況を考えると、日教組から反発される可能性のある改革はむずかしいと思わざるを得ません。


なんだか否定的なことばかり並べてしまいましたね…。
それでも子供たちがワクワクして授業に取り組めるような、質の高いデジタル教科書ができること願っています。

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